6時に起床して外へ出る。冷え冷えとした空気、雲もなく深深とした青空、ずっと向こうには雪をかぶったディラン峰が青に映える。下を見ると、段々畑は緑で点々とピンクの絵の具を落としたように杏の花が咲いている。ここが多くの旅人が桃源郷と呼ぶ村フンザなのだ。評判通りの美しさ、僕もこの景色を見た瞬間にフンザファンになってしまった。
さて、昨日の夕食時、同宿のMさん、Sさんから、今日「チャハールム」というシーア派のイベントがあり、宿の兄ちゃんが連れて行ってくれるという話を聞いていたので、それに同行させてもらうことにしている。その前にまずはシャワー、洗濯、日記と雑用を済ませておく。
10時過ぎ宿のご主人達数人と一緒に出発、KKHまで下っていく。ギルギット側へしばらくいくと幟を持ったり、鉢巻きをしたりした数百人の男達が見えてきた。彼らは車に載せられた巨大スピーカーから流れるリズムにあわせて歌い、胸を叩きながらゆっくりとアリアバードの方へ進んでいく。僕らはなんだかよく分からないまま少し距離を置きながら集団についていった。しばらく行くとある兄ちゃんがが英語で、前から見たければついてきな、写真も撮って大丈夫といって脇をぬって先導してくれた。私立学校の教師をしている彼からこのセレモニーの意味やイスラム教の考え方、ギルギットで起こっている紛争の理由などなどいろんな話を聞いた。
今日は暖かく、歩いていて気持ちのいい陽気だ。KKH沿いの杏は満開でこの熱いムスリム集団とは対照的な春爛漫といったのどかな雰囲気を醸し出している。行進は1時間以上かけてゆっくりと進みアリアバードとの中間点あたりでストップ。それからしばらくバラバラになっていた。僕はとある兄ちゃんにお茶に誘われたので、街道沿いにあるお宅でチャイとパンをごちそうになる。くつろいでいたらそろそろ儀式が始まると言うので再び道へ出て様子を見に行く。何人か宗教指導者らしき人の演説が続いた後、いよいよヌンチャクの先がナイフになったような刃物で自らの体を叩き傷つける儀式が始まった。僕は以前イランのマシュハドでチェーンを自分の体に叩きつけるセレモニーを見たことがあったのでそれと同じかと思っていたが、ここの場合、チェーンの先に刃物がついており半端じゃなく壮絶なものだった。背中や胸はみるみるうちに傷だらけになり、そして血が流れ始めても叩きつづけるのをやめない。驚いたことにいつの間にか宿のご主人達もその集団に入っていて背中から血を流していた。たまに傷がひどい人が周囲に止められて最初100人くらいいた集団が徐々に小さくなっていく。僕はある意味狂気的なその集団を呆然としながら見、そしてカメラのシャッターを切っていた。気がつくと服には彼らの返り血が残っていた。
女性は家からその様子を遠目に眺めているだけ、まさに「男を見せる」熱い儀式だ。30分経っただろうか、いつの間にか男達は数えるほどの人数になり、集団はもと来た道を戻り始めた。自らを傷つけた男達は血をぬぐうこともせず、誇らしげに赤く染まったシャツを着て帰路につく。僕らは途中で集団を追い抜いて村へ戻る。途中で少年達がチャイとパンを配っていて、異教徒の僕らにも快く分けてくれた。これは儀式であると同時に祭りでもあるのだろう。日本だと振舞い酒が出るところだが酒が禁じられているので代わりにチャイが出るというわけだ。
帰り道は道沿いに咲き乱れる杏、村の子供達などの写真を撮りながらゆっくり戻る。宿についたのはもう4時過ぎ。丸1日使ってしまったが、貴重な経験だった。
↓自らの体に刃を叩きつける男達
| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 | 31 |