【読書メモ】JALで学んだミスを防ぐ仕事術(小林宏之著 SBクリエイティブ刊)

ワールドカップグループリーグ最終戦 西野采配への反応を見て
サッカー日本代表はポーランドに1-0で敗戦しましたが、フェアプレーポイントでセネガルを上回りグループリーグ突破を決めました。2大会ぶりの決勝トーナメント進出自体はとても喜ばしいことなのですが、メディアやSNS上では、残り時間が少なくなってコロンビアがリードしているという「他力」に頼り、ダメージを深くしなければ敗戦でよしという意図を持って無難なパス回しに終始した西野采配について賛否両論が巻き起こっているようです。

我が家にはテレビがないので試合自体は見ていませんが、ちょうどこの試合と同じタイミングで読んでいた元JALキャプテン小林宏之氏の「JALで学んだミスを防ぐ仕事術」と重なる部分があるな、と感じ書籍の紹介をしてみることにしました。

本書でいちばん響いたこと

本書は、著者の湾岸戦争下のフライトなどJALのキャプテンとしての経験を、主にヒューマンエラー対策に関して、1項目ワンテーマで簡潔にまとめられているものです。正直なところ「当たり前」と思われる部分も多いのですが、それを愚直に実行すること、チームとして仕組みを構築することで1000回、1万回繰り返しても事故が起こらないようにしているというエアラインの現実がよく分かりました。
ヒューマンエラーに関する本は、最近読んだ「宇宙飛行士だけが知っている最強のチームの作り方」にも、多くの参考事例が紹介されていましたので、関心のある方はこちらも一読されるとよいでしょう。

さて、僕にとって、本書で一番響いた著者の言葉は「危機に遭遇した場合、みんなに好かれようとかよく思われようとはしない」というフレーズでした。これは、悪天候下で予定の空港に着陸すべきか、ダイバート(代替空港へ着陸)するかという機長の決断について語った言葉です。JALでは、「(最優先すべきは安全で)臆病と言われる勇気を持て」という社風があるので、ダイバートによって乗客から苦情を受けたり、と対応に追われた地上スタッフから「お疲れさまです」とねぎらいの言葉をかけられると紹介されていました。

実際のところ、私自身も、出張で○○へ行った時に悪天候で、他の便は着陸したのに自分の乗った便だけ出発した空港に引き返してしまい「どうしてくれるんだ!」と怒り狂ったよ、といった話を聞くこともありますし、そんな話を聞くと、「それはひどい話ですね。下手なパイロットに当たったんですね」などと返事をしていました。

しかし、100%安全に着陸できる保証がなければ着陸すべきではないのはパイロットとしては当然の判断で、1%の不安を持ちながらも乗客の都合を優先して着陸するという判断をするパイロットがいるとすれば、結果として無事に着陸できたとしても問題視されるべきは後者のはずです。

もう1つ、著者が次の項で紹介している緊急時の心持ちとして「トラブルのときは絶対に100点を目指さない」という言葉もありました。とにかく最悪の事態を避けることを最優先に考え、その他のことは切り捨てていくことも勇気だということです。

西野采配に当てはめて

著者の考えを今回のワールドカップ ポーランド戦に当てはめて考えると、グループリーグ突破が最優先すべき課題であり、どうすればそれを最も高い確率で実現できるかを追求した結果、西野監督が実際にとった采配は「賭け」の要素がないわけではありませんが、非常に合理的で、そして勇気の伴う決断だったと言えるのではないでしょうか。

一部のメディアやファンから、卑怯だ、恥ずかしくないのか、と言われるであろうことは百も承知でこの戦い方を選択された西野監督の戦術は、安全第一という当たり前の結果を求めた決断であったのだろうと思いますし、そこは「勝負師」という賞賛ではなく、「チームをベストなポジションに導くリーダー」として認識されるべきなのではないかと思いました。

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