Day48 権力の手先

アリまではあと110km、今日はどうやっても着けるだろうと思い目覚ましもかけずに寝ていた。起床は8時半、洗顔をして9時前に宿を出る。朝食に饅頭を買ってそこの店でアリへ行くバスがあるか聞いてみると「没有」だった。昨日のオヤジ、適当なこといいやがって…だまされた。ま、いいや、他にも車はいくらだってあるだろう[:ぶー:]
町外れの路上でヒッチ開始。1時間待っても1台も車が来ない。10時過ぎラサ発アリ行の寝台バスが来る。ここまで来て最後に寝台バスに乗るというのは何となく気が進まない。が、一応交渉。案の定100元と吹っかけてきた。値切って50元になったが断った。
何日か前までは疲れていてとにかく早くアリへ着きたいと思っていたが、ゴールが近くなり、待つことにも慣れてきたのかムリして(相場以上の金を払ってまで)進むこともないと思うようになってきた。むしろ、この澄んだ空気と木が1本もない高原の風景の中でのんびりと車を待つこの西チベットでのヒッチが終わるのが惜しいような気持ちすら芽生えていた。勝手なものだ[:イヒヒ:]

12時頃、停めたトラックのドライバーからこの先に検問があるから乗せられないと言われる。う〜ん、ここまで来てまだ検問があるのか…。仕方なく検問所を過ぎるまで歩いていくことにする。1〜2km先にロープが張ってあるのが見えてきた。小屋はないので常駐ではなさそうだ。公安の車が停まっているのでそれを避けて行きたかったが、道の片側は崖、反対側は川になっているので避けようがない。腹を決めてしれっと正面突破。当然、ロープをまたぐ前に見つかり車から公安と軍人の2人が降りてきて、どこへ行くのか?と聞く。
笑顔を作り「新疆へ行くところだ」と答える。
「新疆人なのか?」
「いや、日本人だ。朝から車を待っているが来ないので歩いてきた。」
「パスポートを見せろ」
「どうぞ…」
といったやりとりの後、どうなるかと思ったが、意外なことに

ここからアリまで110kmくらいある。俺たちが車を見つけてやるから一緒に待ってな。

ヒッチを取り締まるための公安がヒッチを助けてくれるらしい(笑)

これ以上の対応は望むべくもないだろう。礼を言って、公安車の後部座席に乗りこむ。若い公安と軍人の兄ちゃんはいくつか質問をしつつ、菓子やメロンなど食べ物をいろいろ分けてくれた。珍しいから親切にされるのだろうか???
しばらくして公安の兄ちゃんが車で革吉へ戻っていったので軍人の兄ちゃんと二人で川向こうにあるテント茶館へ行ってボヘーッと過ごす。軍人は四川省の出身で人懐っこい顔をしている。大理にいる白族の彼女のプリクラを僕に見せ、取っておけという。もちろん、(人の彼女の写真をもらってもしかたがないので)丁重にお断りしたが…。今日も晴天で小川のほとりに寝転がって空を眺めるのも気持ちがいい。ついつい眠りこんでしまいそうだ[:zzz:]
それにしても車が来ない。来るのは反対方向ばかりだ。たまに来るそれらの車を停めて免許証やらをチェックするのが軍人の仕事らしい。3時頃ウイグル人が運転するトラックが来た。荷台にはチベタンの少年が5人。彼は僕に見せる親しげな顔とはうって変わって高圧的な態度で免許証、車検証を取りあげると、車を脇に停めさせ本来ならヒッチ1人当たり100元だから500元の罰金になるところだが200元にしてやる、といった話で罰金を要求した。もちろん「切符」のない体のいいワイロである。ドライバーのおっちゃんも助手席からスイカやらメロンやらを持ってきてご機嫌をとろうとしたり、金がないなどいろいろ言い訳をするが彼はほとんど無視。そんなやりとりが30分以上続く。
ウイグル人は基本的にいい人が多いし、自分もヒッチで乗せてもらってる立場なので何とかしてあげたかったが僕にはどうしようもない。結局、ドライバーが手持ちの50元を払って妥結。中国ではまだまだ「人が法」であることを見せつけられた。正直なところ、(ウイグル人が)気の毒だと思うと同時に、一歩間違えば自分が金をせびられることになっていてもおかしくはないと思うとほっとする気持ちもあった。警察や軍などが権力を利用して私服を肥やすことはこの国では当たり前のことなのだ。対岸の茶館の小姐はいつものことといった感じで笑いながらやりとりを眺めていた。
5時過ぎ、1台の四駆が来て軍人が僕を乗せるよう頼んでくれた。50元だという。朝のバスと同じじゃないか…40元にしてくれといったがダメ。50元は普通の値段だと軍人が言う。高いと思ったが彼の面子をつぶすのも悪いと思い了承。彼に別れを告げようやくアリへの最終区間へ入る。道もいいし、車も四駆なので快走。30分ほどでインダス川を渡る。かなり水深があり車内で少し浸水した。なかなかスリリングな渡渉だ。ガイドブックでは道はずっとインダス川沿いになっていたのでどうやら違うルートをとるらしい。途中、給油、休憩などをはさんで、ちょうど3時間後の8時過ぎにアリ到着。予想以上に大きな町だ。しかも建設ラッシュのようで、これからますます大きくなることが予想される。きっと漢族がどんどん移入してくるに違いない。
予定していた宿が閉まっていたので町を歩きつつ宿探し。新しいイスラムホテルというところが40元でシャワー付、部屋はとてもゴージャスだったのでここにチェックイン。1週間ぶりにシャワーを浴びて冷たいビールを飲み、長かったヒッチ旅の(とりあえずの)終了を一人祝った。[:祝:]

今日の移動距離…110km
今日の待ち時間…8時間

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