【読書メモ】この国を出よ(大前研一×柳井正著 小学館刊)

ビジネスの分野でグローバルに活躍している日本人の代表ともいえる2人が対談形式で日本の危機的な状況と進むべき方向について語っている。バブル崩壊後も世界第2のGDPを維持してきたというだけで、いまだに根拠のない「自信」を持って何とかなると思っている危篤状態の病人、これほど今の日本を的確に表現している言葉はないだろう。
一言一言がそのとおりで耳が痛くなるような提言が続く。

この本の骨格となるテーマは「国民全員が現在の日本の危機的な現実を認識する」こと、と「国に頼らず自分の力で立て」という2つである。前半は主に現状認識、後半はユニクロの実例などを挙げつつ自分の力で道を切り開くことが語られている。

日本人が現状を直視しない理由の1つは、柳井さんの言うとおり世界第2の経済大国になったことで、ハングリー精神を失い「そこそこの生活ができればいい」という考え方が普通になってしまったことにあるのだろう。そして、競争を悪とする教育体制もその原因の1つである。今は、大前さんのいうように、本気で一般会計の予算規模を現在の半分にして、国民も1/2レベルの生活を受け入れる覚悟で財政再建をしなければならない時になっているのかもしれない。そうした大ナタを振るうことができないのは日本の政治家が選挙屋で、絶対数の多い「所得が平均以下」の人の要望ばかりを聞いていること、そして国民も自分の周囲との相対的な関係だけを見て(無意識的に)「ゆるやかな沈没」ならよしとしてきたことが原因なのだろう。

こういった現状認識についての話が続く前半は、確かにそのとおりだ、しっかりしたビジョンを持った政治家が出てきてくれれば、自分たちも真剣に将来を考え、生活レベルを下げても財政再建に協力しようと思うのに…と考える。だが、それ自体が甘い考えだということが後半で語られる。多くの読者にとって耳が痛いのは後半部分。
日本の経営者はある程度まで会社が成長するとすぐに達成感を覚えてしまいがち、”そこそこ”の成功で満足してしまう、信念なき金儲けをしている、社会を変えたいという信念がない、など柳井さんから厳しい言葉が続く。確かに「日本病」にかかっているのは、政治家だけではなく、我々の多くなのだろう。

だからこそ、サラリーマン根性を捨て、自分で稼げる人間になることを真剣に目指さなければならない。食べるために稼ぐ、という原点に帰って甘えを捨てなければならない。世界に出ればチャンスは50倍に広がる、という柳井さん並のスケールを身につけなければならない。

最後に、僕が我が意を得たりと思ったのがこの部分。

「同じ社会貢献なら、ビジネスでその国に貢献した方がいい

海外ボランティアというのは、多くの場合、できあがった組織の中で自分の労働力を厳しい環境に置かれた人たちのために提供することに過ぎず、自分で興すビジネスとは責任感のレベルが全く違うものだ。
各論では、そんなことないのでは?と感じる部分もいくつかあるが、総論は全面賛成。多くの人がこの本を読んでサラリーマンからビジネスマンへ脱皮することを期待したい。読んでよかったと自信を持って言える1冊。

本日の1曲 STING「The End Of The Game」

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