【読書メモ】僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ(天野春果著 小学館刊)

川崎フロンターレのプロモーション部長天野春果さんが、数あるJリーグクラブの中でも地域密着、ユニークな企画で注目されているフロンターレが行なっている仕掛けの数々について記した1冊。

スタジアムに企業名を出せばスポンサーが喜んで金を出してくれる時代は昔の話となり、多くのクラブが経営難に陥っている現実が示すとおりサッカークラブ運営は普通にやっていて右肩上がりになるものではない。サッカーファンが増えたとはいえ、ワールドカップイヤーだけ日本代表を中心に盛り上がるが、中心選手の移籍でも起こればスタジアムへの客足がガタッと減るのがまだまだ日本のサッカー界の現状なのだ。そんな中で、チームの実績もJ1上位の常連となり、観客動員も2002年以来伸び続けている川崎フロンターレの活動は注目を集めている。

僕は川崎市民のサッカーファンなのでフロンターレの地元での活動は至るところで見ている。街中に選手のポスターが貼られ、駅や図書館、献血ルームなどでも選手が川崎市の広報活動に活躍している。横浜市民だったときにこれだけマリノスの選手のポスターを見たかというと露出は断然少なかった。

ポスターでの露出も、単に地元密着をクラブプロモーションの核にしているというだけでは簡単に実行できるものでもなく、フロンターレでは、選手との契約書に”ホームタウン活動には無償で参加する”という条項を入れており、それによって通常選手の肖像権などを管理している所属事務所の了承を得るようにしているのだそうだ。また、ベテラン選手からクラブの状況を理解してもらい、積極的にプロモーション活動に参加してもらう、選手一人ひとりに「サッカーを職業とする社会人」という意識を持たせる努力も行うなど、様々な手段で企画を実現させている。

本書を読んでいると、随所に「クラブの負担は発生しない」というフレーズが見られ、予算に余裕がない中で費用のかかるプロモーションを成功させる苦労がよく分かる。次々とフロンターレが行ってきたプロモーションのアイデア誕生から実現にこぎつけるまでのストーリーが登場するが、著者のあきらめない姿勢、企画実現力あってのものだと思う。

中にはオヤジギャグ的なおバカ企画もたくさんあるが、それらもただ盛りあげるためにやっているのではなく、チームの成績に左右されない安定した観客動員、応援してくれるファン獲得という目的のために行なっているのだ。チームに魅力がない状況でもスタジアムを満席にするというのがクラブの事業サイドのミッションであり、以前読んだエスキモーに氷を売る―魅力のない商品を、いかにセールスするか
という本を思い出す点がいくつかあった。著者はアメリカの大学でスポーツマーケティングを学んだ方なので当然であろうか。

川崎市民として、ますますフロンターレの活動から眼が離せなくなった。

本日の1曲 Great White「Once Bitten Twice Shy」

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