【読書メモ】滅亡へのカウントダウン上・下(アラン・ワイズマン著 早川書房)

世界中で行われた綿密な取材を基に人口問題を直視した一冊。参考文献リストだけで70ページを超える大作です。日本では、少子高齢化ばかりが問題となっていますが、世界規模で見ると、問題は人口の減少ではなく増加であることを強烈に認識させられました。

人口増加による地球への影響には食料不足(飢餓)だけでなく、水不足、エネルギー不足、Co2の排出量増加とそれに伴う海面の上昇などなど様々なものがありますが、どれも現在の日本にとっては深刻とはいえない状況であり、人口の減少より人口爆発の方が大きな問題だと考える機会がほとんどないと言ってよいでしょう。特に日本は水資源に恵まれているので、既に世界のかなりの地域で人口増加に伴い水不足が生じていることなどはほとんど話題になることはありません。

地球上に住める人間の数が何億人のレベルなのかは、作物の生産効率など様々な要素があり、科学者の間でも推計を出すことは困難なようです。しかし、現在、人間の数は既に70億人に達し、今の出生率を女性一人につき0.5人減らすことができれば21世紀末の人口は60億人とマイナスペースになり、逆に0.5人増えた場合は160億人に達するというレポートを聞くと、世界規模のコンセンサスに基いて出生率をコントロールしていくことが待ったなしの課題であることがよく分かります。

本書は大きく分けて、世界中で人口増加によって様々な危機が起こっている現状の紹介、人口増加を抑制するために各地でとられてきた運動、人口爆発による食料・資源不足をテクノロジーによって何とか回避してきた歴史という3つの柱から構成されていると言えます。

「緑の革命」と呼ばれる高収量品種(High Yielding Varieties HYV種)の開発や、ハーバー・ボッシュ法により窒素を化学合成することにより作物の生産効率が飛躍的に向上し、もしそれがなければ既に人間の一部は飢餓に面していたであろうこと、地球温暖化の要因として牧畜がいかに大きな影響を及ぼしていること、シェールガス革命と言っても採掘するために非常に大きなエネルギーを消費してしまうことなど、文系人間には驚くような話も多く掲載されています。今までの知識がどうしようもなく浅いものだったことを痛感しました。

日本も下巻で紹介されており、人口が減少している国のモデルとして、都市集中から地方分散を進め持続可能な低成長社会への移行ができるのかという視点で語られています。このあたり、日本では経済成長の観点から「少子高齢化を何とかしなければ」という論調ばかりですが、戦後の成長一辺倒だった社会を見直し、逆三角形の人口ピラミッドを状態を何とか乗り切り、22世紀子ども、孫の世代が飢えることのない低成長安定社会の基礎を今作っていくという視点こそ求められるのかもしれません。

持続可能な社会の実現と経済成長という極めて難しい問題の舵取りを行う政治家にこそ読んでほしい1冊ですが、私たち一人ひとりも短絡的なメディアに煽られることなく、数十億年にわたる地球の歴史上ないスピードで人間という一つの種だけが増え、地球の資源を食い尽くそうとしている現実を直視していく必要があるでしょう。今、この本に巡りあえてよかったと思いますし、また多くの方に読んでいただきたいです。

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