さて、Kindleで読み通した初めての小説ターンAガンダム「月に繭 地には果実」。
1999年に放映されたアニメ版は、カラーリング以外はガンダムとは思えないメカニカルデザイン、そして世界名作劇場のような立体感のないキャラクターデザインに馴染めず全く見る気がなかったのだが(そして今に至ってまだちらっとしか見たことがない)、この小説は作者?が福井晴敏ということもあってか、引きこまれるように読めた。
<以下ネタバレ注意>
核戦争で人間が住めなくなった地球を放棄して月に移住した人類が2000年の時を経て地球に「帰還」する際に起こる摩擦、と書けば簡単だが、本作では、平和の時代から戦争の時代に突入した途端、人間の好戦的な本性が甦り、当事者が予想しなかったスピードで再び地球(と月も巻き込まれ)再び破滅へのカウントダウンを始めるという重いストーリー展開となっている。
モビルスーツ戦よりも政治的な駆け引きのほうが多いので、ガンダムファンでない普通の大人でも楽しめるだろう。もっとも、ガンダムファンだったら冬の宮殿で黒歴史が紐解かれるくだりでの「赤い服を着た男」…といった表現にはニヤリとさせられるだろう。
個人的には、泣き虫ニュータイプの主人公ロランよりも、グエン・サード・ラインフォードなどのキャラクターのほうが印象に残っている。孤独な女王ディアナ・ソレルの理想とは正反対の方向へ事態が進んでいき、彼女自身の悲しい死に様も印象的だが、グエンとシャアを重ねあわせてみると「お嬢様だからさ」といわれてしまうのかもしれない。
核兵器の使用、ザックトレーガーの崩壊、そしてキースの工場が焼かれるあたりの描写は戦争の悲惨さを十二分に伝えている。ガンダムシリーズでは常に少年が戦いに巻き込まれていく展開の中で、「反戦」というテーマが語られていくのだが、主に宇宙を舞台にした多くの作品と比較すると地球と月を舞台とする本作はそのリアリティが抜きん出ていると感じた。大人のガンダムファンにオススメの1冊。
アニメ全50話を見るべきか…迷うな。
本日の1曲 宇多田ヒカル「Addicted To You[UP-IN-HEAVEN MIX]」
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