【読書メモ】脳には妙なクセがある(池谷裕二著 扶桑社刊)

脳科学者(薬学博士)の池谷裕二氏が2012年に出版された書籍です。池谷先生の著作を読むのは初めてでしたが、紹介されている論文の数がハンパなく、日本で一般向けの本を書いている方でこんなに充実した巻末文献リストはほとんど見たことがありません。もっとも、それだけ自分の経験だけで本を出している方が多いということの裏返しと言えるかもしれませんが…

この15年くらい「脳」への関心が一般人にも高まっていて、脳を取り扱った書籍も多くなりましたが、本書を読んでまず感じたのは「世界の大学や研究所では、日常的にこんな面白い実験が行われているんだ」という驚きでした。本書は、章ごとのテーマに沿って世界で行われている様々な脳に関する研究論文を紹介し、それに著者が解説を加える形式で最初から最後まで書かれています。おそらく1つ1つの研究論文は、科学者向けに書かれたもので、素人にはとうてい理解できないようなものなのでしょうが、それを分かりやすく解説してくれるのが著者の力量なのだと思います。

もう1つ本書を読んで得たことは、脳科学という学問は、人間の「無意識の活動傾向」を解き明かすものだという認識を持てたことです。人間の行動は、脳によって決定されるわけですが、現在では、脳の各部位の持つ役割は解明されていて、どういう刺激が与えられると脳のどの部分が活動するのかを見ることで感情や行動への影響を測ることができます。人間は、考えて行動しているように見えて、実際は反応レベルで動きが決められていることも多いということがよく理解できました。

好奇心をそそられる話ばかりで、人前で話すことが多い方は「ネタ帳」として1冊持っておくとよいのではないでしょうか。特にへぇ~と感じた部分を下記します。

・他者との比較によって、脳は「不安」を感じ、他人の不幸を知ると快感を生み出す「側坐核」が反応する。→他人の不幸を気持よく感じてしまうのは根源的な脳機能の一部と言える。

・男性ホルモンが強い人は投資家としての素質がある。テストステロンの多い日は取引がうまくいく傾向が強い。

・母親が幼児期によい経験をしていると、子供の海馬機能が高く、記憶力もよい。

・自己犠牲のプログラムは、前頭前野の活動によるもので「罰を恐れた利己的な選択の結果」と解される。

・笑顔は感染する。人を笑わせるのに一番効果的なことはただ隣に座って笑い続けること。笑顔の表情を作ると、ドーパミンが発生し快楽を感じる。笑顔を見る→(無意識に)笑顔を真似る→楽しくなるという流れが存在している。

・姿勢を正して書くと確信度がアップする。

・勉強にアウトプットを加えると記憶の定着がよくなる。また、摂取カロリーを減らすことでも試験結果が向上したデータがある。

・音痴は遺伝の影響が大きく、空間処理能力に比例する傾向がある。

・ネアンデルタール人は3万年まえまで生存し、そのころ人間の女性と交配し、現生人類の遺伝子の1%はネアンデルタール人に由来している。

・奇跡の遺伝子「FOXP2」の2か所の変異によって、人類の言語能力が爆発的に高まった。

・「ひらめき」は、後からそう考えた理由が説明できるが「直感」は明確な根拠のない感覚。直感は年齢による経験の増加により能力が高まるが、数値については誤った認識を持つことが多い。

・個人の脳には思考癖があり、それが無意識に反応しているが、本人は自分が判断した結果であると考えている。無意識の自分が真の姿と言える。よい経験を積むことがよい思考癖を育て、よい反射をもたらす。

・レミニセンス現象:記憶は睡眠によって定着する。分散学習と集中学習では短期的な成果は変わらないが、長期的に見ると分散学習の方が効果が高い。

・ヒトは大脳新皮質の増大に伴い、身体運動を省略し脳内で情報ループを済ませてしまう。これが「考える」という行為であるが、本来の脳は身体と共に機能するものであり、行動(身体活動)をすることは脳にとって重要である。

最後に

脳科学の知識は、自分の行動について考える際、知っているといないでは大きな違いがあるのではないでしょうか。本書を読んで、池谷先生の著作は全て読んでみようと思いました。

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