木村剛の罪は2つ

日本振興銀行元社長の木村剛が検査忌避の容疑で逮捕された。東大出身で日銀で活躍、その後、小泉政権時代は竹中平蔵・元金融相のブレーンを務めた金融界のみならず広く名を知られた人物だ。

彼がこの3月に出版した『「ビジネス」の発想法』(ナレッジフォア)を先月読んだばかりだったので、このニュースへのショックと彼がこの本で書いていたことは何だったのかという失望感はひときわ大きかった。

著者はこの本で、経済学という理論の世界で生きてきた自分が日銀を退職し起業し、当初全くお客を獲得することができず、資金繰りで眠れない日々を過ごし経営者にしかわからない孤独や悩みを経験したことを通して、たどり着いた経営者としてのビジネスの発想について語っている。
この本の中で繰り返し述べているのが、「ビジネスの世界は意志と情熱の世界であって理屈や勝算の世界ではない」「経営者を支えるのは夢や理念があって、カネではない、命を賭けるだけの真剣さで考えぬいて突破口を見つける」「会社のミッションは、ビジネスの中身が社会的に正しいこと、それを社会が本当に求めていること、他の人よりも自分がやった方が適切なものになること」といった、この華々しいキャリアの人が書いたとは思えない泥臭い内容だったので、強く感銘を受けた。読後は、起業を考えている人に必要なのは「事業計画書の作り方」みたいな本ではなく、この本なのだ、と思った。

しかし、その後での今回の逮捕騒動。破綻への経緯等は伊藤博敏氏の「ニュースの深層」に詳しいが、一読者としては本当にガッカリした。彼は、カネのために道を踏み外したというわけではないのだろうが、結局は中身が社会的に正しいこと、とはいえないビジネスに手を染めてしまった。

この本を読んだ人は誰もがこう思うだろう。「アンタが書いたことはなんだったの?自分がリスペクトされそうな建前を綴っただけ?

多くのビジネス書を書く人(実際のところ多くは口述をライターが本の体裁にしているだけだと思うが)が、どれほどの気持ちを込めて書いているのか信用できなくできなくなってきた。彼の罪は、銀行法違反というものだけでなく、ビジネス書への信用を失わせるという側面もあるはずだ。

本日の1曲 STING「She’s Too Good For Me」(Symphonicities version)

一応。本の紹介もしておきます。

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