大前研一氏の週刊ポスト連載の記事を中心に編集、書き下ろしを加えた本で、2013年9月、安倍政権が誕生し約1年後に出版されました。市場がシュリンクしている日本において、社員がこれまで通りに働いていては会社の業績、自身の給与は下がるだけ。そこで求められているのが自立して「稼ぐ力」を持った人材というわけです。本書では、日本企業が置かれている現状分析に始まり、続いてそれに対処するために求められる人材について大前氏ならではのグローバルな視点で書かれています。
稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方 | ||||
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本書での「稼ぐ人」は、グローバルな大企業に勤める人をイメージしているようで、起業に関する話題はほとんどありません。幅広い年代のサラリーマン向けの本といえるでしょう。広い視野から現状認識をして、給与格差・雇用形態が増えて行く中で、自分がどうすべきかと考えるにあたり、よい刺激になりました。
一方で、大前氏は、労働力の流動化、外国人労働者の受け入れは避けられないという考えなのですが、稼げなくなった日本人が増える事態になった場合の問題(セーフティーネットなど)についての話がなく、それで多くの日本人が幸福になるのかという点では疑問が残りました。また、ちょっとビジネス・ブレイクスルー大学の宣伝的な話が多いかな…
以下、エッセンスを抜き書きします。
・「輸出大国・日本」は1980年台の話で、メーカーの海外生産が進んだ現在ではメーカーは輸入業者化しており、多少円安にふれてもこの流れは変わらない。→これからの日本は何を飯の種にしていくのか?
・欧米のグローバル起業と比較して、日本企業の海外展開がうまくいかない原因は「組織」「採用」「人事」にある。大雑把な地域単位の海外戦略ではなく、一番優秀な人材を一番重要な国に15年以上の長期にわたって埋め込むようにきめ細かく必死に取り組まなければならない。
・日本企業の本社部門は人が多すぎ。フォーマットの統一による間接業務の整理によって25~40%の人員削減は可能。削減した人員については、「要る人」「要らない人」を分けなければ、組織が腐っていく。不要となった人は徹底的に再教育し、一人最低一つの得意分野を磨きあげる。
・仕事の定義ができていない企業が多い。定型業務と非定形業務を同じ人にやらせるとサラリーマンは定型業務を優先するのが常。これではダメで、本社部門は非定形業務だけを行い、定型業務はIT化またはBPO化すべき。
・日本企業は人事DBを軽視しすぎ。欧米では次代の経営者を発掘、養成することに莫大なコストと労力をかけている。人事DBはその要。経営トップは人事評価・選考に労働時間の20%を割いている。
・グローバル人材に必要な2つのスキル「ハード(会計、マーケティングなどの知識)」と「ソフト(海外でも通用するコミュニケーション・問題解決力)」。
・求められるのは「具体的な物語を語って成果を説明できる人材」。協調性や精神論は売りにならない。人のできないことをやえるのが「仕事」。作業マンは不要になっていく。
・部下や外部の人間に仕事を頼む場合は、クオリティや納期など仕事の内容をSLA(サービスレベルアグリーメント)という形態ではっきり示すべきだが、日本企業ではほとんどできていない。そのために仕事の成果ではなく時間を単位にしたマネジメントになる。
・会社人生を3つのフェーズに分けて考える。与えられた仕事をきちんとこなして結果を出す受命・拝命の第1フェーズ、中間管理職が第2フェーズ、ここでは3つくらいの異なる分野で仕事をするのが理想。第3フェーズでは「新規事業の立ち上げ」「ダメな事業の立て直し」「中核事業をさらに伸ばす」のいずれかの役割を果たす。
・プレゼンでいちばん大切なことは「たった1つの物語を語ること」そして「何を達成したいのか」を明確にし、人を動かす。
まとめ
会社に稼ぐ力がなくなった現代において、個々人の稼ぐ力がますます重要になっています。人と同じことしかできない、言われたことしかやらない人は世界レベルで賃金の安いとことまで落ちかねないという危機感を持って、高いアンビションを持ってスキルを磨きつづけなければならない…厳しくもチャレンジのしがいのある時代になったと言えるでしょう。
大前氏のようにグローバルな環境を経験できる人は限られています。ドメスティックな環境で仕事をしている僕のような人間は、そうした経験・見識を持った人の書籍を読んだりすることで、意識して視野を高く持つことが必要だと感じました。
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